Home > Review > 経済は物理と同根かどうか

経済は物理と同根かどうか

経済物理学の発見 (光文社新書) 経済物理学の発見 (光文社新書)
高安 秀樹
光文社(2004/09/18)
価格:¥798
Amazon.co.jp で詳細を見る

実は、この前行動経済学 経済は「感情」で動いている (光文社新書) といっしょに本書も購入していた。「物理」と「心理」の対比が面白いので読み比べてみようと思ったからだ。確かに違う点は多かったけど、個人的にはまだそれを整理しきれてないので、その話題はまた今度にする。一方で、経済学が心理学とも物理学とも違うということを改めて感じたんだけど、それも整理しきれていないのでまた今度。

読んだ後で気づいたんだけど、本書はもう4年前の本で、世の中はだいぶ先へ進んでいる。中身的にはもう知っていたり、耳にしていたりする事柄が多いんだけど、それでもいくつか気づかされたり、再確認させられた概念があるので個人的に整理しようと思う。


1. 相転移現象

水が氷になったり、湯気になったり。どの形をとってもH2Oだが、その「相」によって持ってる性質は全然異なる。

経済にもこの考え方は応用できて、一人が1億円を持っているのと、1億人が1円ずつ持っているのでは、同じ1億円でも全く意味が違う。一人の1億円は銀行に預けるだけで利子を生むけど、1億人の1円はきっと忘れ去られるだけだろう。

水に対して成り立つ理論が、氷でも、蒸気でも同じく成り立つとは限らない。
個人間取引問題の理論が、企業間、国家間でも成り立つかどうかは再考の余地がある。

2. べき分布(フラクタル分布)

ある種の現象は、正規分布ではなく「べき分布」に従うことがある。

たとえば、ちょっと大きな石を地面にたたきつける行動を考えてみよう。きっと、
ちょっと大きな破片が少し、
小さな破片がいっぱい、
目に見えない無数の粉や埃、
そのようなものができるはず。この現象は、「べき分布」に従っているらしい。

image

縦軸: 石(破片)の数 横軸: 石(破片)の大きさ
このグラフをちょっと見方を変えて、石の数を2を底とする対数に取ってやると…(別に2じゃなくてもいいけど)

image

縦軸: 石(破片)の数の2乗 横軸: 石(破片)の大きさ
こんな直線チックになるような分布を「べき分布(フラクタル分布)」という。この分布の特徴は、

  • 標準偏差が大きくなる(でっかいのとちいさいのの差が激しい)
  • 平均は非常に小さい値になる(小さいのが多すぎて平均が無限小になる)

という2点。そして大きな部分を寄せ集めるだけで、大まかな元の姿を推察可能であること(壺を割ったら、小さい粉は無視して大きな破片を組み合わせれば、ほとんど元に戻るようなもの)。相転移のない、べき分布な事象なら、マクロでミクロを、ミクロでマクロを描きうるのですね。そして、平均も、偏差値も役に立たない事象があるということは、常に心にとどめておいた方がいい。

(貨幣価値の相転移をインフレ・デフレでとらえるのはわかりやすいし興味深かった。)

実は、こんな経済学にわざわざ「物理経済学」という名前を付けなくても、そもそも経済学は物理学の成果を取り入れてきた。京大の複雑系経済学なんかはその最たるものだ。本書でも、「物理経済学」という名前が、アメリカの研究機関での研究費計上のためになにか名前をでっちあげなければならなかったというのがキッカケであることがちゃんと述べられていることからも、「行動物理学」ほど新しさや生まれの必然性を感じなかった。

でも、やはり餅は餅屋。

  • 日本の銀行(約500行)は、本来取引可能な取引(30万通り)の内のごく一部の銀行としか取引を行っていない(約7000通り/全体の2%)→平等に取引せず歴史、力関係などでハブ化されている
  • 日本経済は30年間成長していない

といった分析は面白かった(もっとも、後者については別のアプローチで学部1回生で習ったけど)。きっと、物理学者の冷めた目にしか見えない真実もいっぱい転がってるんだろうと思うと、この分野に期待する気持ちを抑えることができない。

PS:
本来ゼロサムゲーム(誰かが得すればだれかが損する)市場でも、市場の揺らぎを利用して安定した収益を上げるファンド。本書ではこのプロセスを解明できれば…という話もあったけど、解明したらしたで、それをもとにした戦術が編み出されるのでより複雑になるだけじゃ?(分析主体がすでにプレイヤー)
地域通貨の有用性が語られてたけど、文化・政治が絡めばそんなナイーブな問題ではないような?
そもそも冒頭で経済学がとってきた一般化のアプローチが批判されていたが、それと物理学の繰り込み論、フラクタル、その他もろもろの分析技法とそんなに違うのだろうか?

まぁ、とりあえず。

技法としては取り入れるべきだけど、経済学は技法だけで成り立っているのではなく、常に現在社会を把握するビジョンであり、次世代を指し示す規範・哲学だということも忘れちゃいけないかなーとか何とか思った(その点行き詰まりも感じるけど)。

Home > Review > 経済は物理と同根かどうか

My Friend Feed

http://friendfeed.com/daruyanagi

Google Analyticator

600
 Unique Visitors 
 (1 day) 
Powered By Google Analytics

Return to page top