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自由、愛、惑う人々

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『プラネテス』のポリティカ その1 – 猿虎日記(さるとらにっき)
『プラネテス』のポリティカ その2 – 猿虎日記(さるとらにっき)
プラネテスのポリティカ その3 – 猿虎日記(さるとらにっき)

僕とは考え方が違うのだけど、とっても面白いと思う。こういう見方でマンガを読んでなかったので、ふむぅーっと思わされちゃうところが多かった。

しかし、いま読みなおしても、ロックスミスって、それこそ最悪な いやな大人じゃないか、と思うのですが、どういうわけか、ロックスミスは、いっかんして、えらくカッコイイえがかれかたをしているのです。というわけで、『プラネテス』のストーリーは、「子供のままの存在」によりそうぶぶんがあるとしても、大人がいつも悪者、というわけでもないのです。大人として 手を汚すことをひきうけながら、しかも、子供の心をうしなっていない、いや、子供の心を失ってしまったことへの 悲しみを けっして忘れない、ふかみのある人間……そんな感じの大人、つまりロックスミスのようなタイプは、肯定的にえがかれています。大人として もんくはいわずに 汚れ仕事もひきうける。男らしく?責任をとっているが、よけいなことは 言わない 有能な技術者。無表情なのは 実は ふかい悲しみをしっている証拠、というわけです。

『プラネテス』のポリティカ その2 – 猿虎日記(さるとらにっき)

とくに、ここらへんを読んで、やっと僕がプラネテスが好きなのか、ロックスミスに共感してしまうのかが分かった。


『プラネテス』で描かれた二つの大きなテーマ

プラネテスって、とても新自由主義的なんだ。個人は、悪しき慣習・慣行・制度・偏見、そういったモノから解放されて、その自由を最大限に謳歌できてしかるべき、というメッセージがまずある。けれど、それだけだと「利己主義」とあまり変わりがない。

そこで、2つ目のテーマ"愛"につながる。プラネテスでの"愛"とは、単純に言ってしまえば「ヒトとヒトの間に境界がないこと」だ。愛のない自由は、利己主義でしかない。こういう視点でみると、なぜハチマキがブラック・ハチマキという成長段階を踏む必要があったのかも明確になる。

 

『プラネテス』の自由 - ただのハチマキ → 黒ハチマキ → …

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まず、第一段階は「自由(エゴ)は唯一万人に肯定されうる"正義"」という、プラネテスの第一命題に気付くことだ。(ただし、作者がこれを完全に肯定してるかは分からない…プラネテスの軸は、第2命題にあるから。)

エゴであることは価値だ。エゴがないと"いい仕事"はできない。社会から借りてきたもっともらしい道徳や正義、言い訳でいかに自分を着飾っても、自分に価値を持たせることはできない。人間は平等に"無価値"だ。エゴに突き動かされながら、何かを成し遂げない限り。つまり、エゴであることだけが価値で、良いことも悪いことも駆動しうる。

そこで、ハチマキは何も顧みず、ただひたすらに自分の野望のために邁進する。エゴという分厚い外殻で身を固めた、「利己主義者」としてのハチマキ、ブラック・ハチマキだ。

 

『プラネテス』の愛 ― 第2命題

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その殻をぶち破ったのが、タナベだった。「ヒトは愛することだけは止められない」という、プラネテスの第2命題の象徴としての彼女だった。タナベはハチマキに、心の垣根を取り払うこと、そしてヒトと繋がることをハチマキに教えた。

それには、一般的に言う"愛"以上の意味がある。

タナベは、こんがらがったムズかしい理論で武装された"正義"に対しても、直感でその本質を見抜いてしまう。いかにそれが"正しい"と一般にみなされるモノであっても関係ない。タナベにとって「正義」と「非正義」など、頭の中をなんかしらに"分断"してしまうモノは、「愛」のあり方と正反対のモノであり、"愛がない"モノであり、"嫌い"なのであり、結局は"そんなのが戦争を起こす"のだ。

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当初ハチマキにとって、タナベ アイ(愛)の存在は単なるハタ迷惑な話だった。"ヒトの心にズカズカと入ってきやがって"、"宇宙はそんなにあまくねぇ"。けれど、"(甘くない)宇宙"って?"あるべき行宙士"って?それは単なる言い訳としての観念にすぎないのではないだろうか。そういうものを守っておくことが(功利主義的に)正しいこともあるだろうが、決して絶対的なものではない。むしろ、ときに可能性という名の自由を束縛してしまうこともある。プラネテスの"愛"は、一般的な愛ともう一つ、さまざまな"観念の境界"を打ち破る一種のパワー、繋がる力としても描かれている(もっとも、限界を打ち破る力はもう一つの命題・自由の側にもあるので、その点では両者は同根かもしれない)。

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ユーリ・ミハイロコフなどのクルーのメッセージも、一貫して"観念の境界"を打ち破ることが基調としてある。

「うーん、私の感じでは、『無い』んですよね。うん、無いんだ、世界の境目なんて。」

"分"かる、理"解"するといった言葉に象徴されるように、僕たちは何かを把握するたびにモノゴトをバラバラにしていく。というか、バラバラにすることが分かるということだ。そして、僕らは大人になる過程で、さまざまなことを分かっていく過程で、世界をバラバラにしすぎて、ほんとは世界に境界なんてないことを忘れてしまう。ほんとはどうでもいい、肌の色の違い、文化の違い、考え方の違いを、ほんとう以上に受け取って、その違いを軸に世界を回してしまう。真実は逆だ。

 

第一命題の象徴としてのロックスミス

さて、ロックスミスの話に戻ろう。もちろん、彼はプラネテスの第一命題を象徴している。そのエゴの大きさゆえに、自分の価値を最大に表現し、大きな仕事をするスーパーマンとして描かれている。

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ロックスミスにとって一つの実験で300人程度の人間が死ぬことと、正義の問題がつながるはずがない。なぜならば、その300人はエゴ(自由)に突き動かされた300人の「ヤマガタ」であり、つまり、300人の「ロックスミス」だからだ。「ヤマガタ」がロックスミスに死を強制されたというのは第三者が勝手に描いた筋書にすぎない。「ヤマガタ」は死よりも研究を大事にすることを、自分の自由において選んだのだ。

だから、「ヤマガタ」の妹がロックスミスを恨むのは筋違いだ。そして、ロックスミスはその恨みすらも受け入れる準備ができている。ヤマガタが研究の末、月で身を粉にすることを"あらかじめ"自らの意志で受け入れていたように。それを知ったから、ヤマガタの妹は拳銃で自分の中の"筋書"を消そうとした。自殺という形で…しかし、それはロックスミスが許さなかった(そこんところ、彼は自分の信条とどう折り合いをつけるのだろうか)。

 

さまざまなモノを引き受けた時の「自由」の重み

かといって、自由が野放しに賛美されているのかと言えば、そうでもないように思う。だったら、漫画の18話はいらない。

エゴは通せば通すほど、その過程でさまざまなモノ(それは自分の分身としてのヤマガタだったりする)を犠牲にせざるを得ない。作中で18話のロックスミスが悲しく描かれるのは、一抹の後悔なのかもしれない。もしかしたら、自分には"タナベ"がいないことなのかもしれない。愛するには、エゴが大きすぎるのだ。愛すれば、境界をなくしつながれば、相手のエゴも引き受けていかなければならない。それでも、それすらも引き受けて、自分の自由(エゴ)を貫くならば…?(アニメではそこは端折られているので、単にとてもハッピーなオタクとして描かれている。)

だから、ロックスミスは(プラネテス的な)愛の重要性を誰よりも痛感しているし、渇望もしている。DJが雰囲気で物語る愛よりも、もしかしたら木星からメッセージを投げかけるハチマキよりも。だから、ロックスミスは最後にこういうのだ。

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「愛」は身近なところから始めるしかない。世界が一つの「正義」で満たされることがないように、世界が一つの「愛」で満たされることも決してないだろうけれど、それでも「ヒトは愛することだけは止められない」。"そういうくっだらない生き物"が"愛"で繋がることが肯定される世界がプラネテスの世界だと思う。そして、「子供」は自由で無邪気で本能としてそれがわかってるのに、「大人」はその両方を失ってしまうのか、というのもテーマになっているのではないのかな。

話は変わるけど、この「子供」って結構、アダム・スミスの世界観に近いと思う。国富論で自由を賛美する"神の手"を論じる一方で、道徳感情論では"同感"、プラネテス的な愛にも近いモノを語るところあたり。んー…これはこじつけですなw

—おまけ—

同じ作者の『ヴィンランド・サーガ』では"「愛」は身近なところから始めるしかない"という(僕のもつ)前提が一度拒否されて、偏愛と兼愛の違いに王子様が目覚めて…!というこれまた面白い展開。結構期待なのですよ。

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