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灰色の魔女の視座

ロードス島戦記―灰色の魔女 (角川文庫)
水野 良
角川書店 ( 1988-04 )
ISBN: 9784044604011
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

中学校の頃、『ロードス島戦記』というラノベが流行っていて、僕も読んだものだった。影響されて、テーブルトークRPGにハマったりもした。TRPGってのは、みんなで集まってしゃべりながらサイコロを転がすゲームだ。一人のゲームマスターがいて、ヤツが語る物語に乗っかりながら、キャラになりきってゲームを進める。わしは、"ドワーフの神官戦士"の役柄が好きだった。なにせマルチ・ユーティリティーで、武器も魔法もそこそこ使える、FFでいえば赤魔導士のようなご都合の極めてよろしいキャラだったからだ。

それはともかく。

ロードス島戦記がおもしろいのは、主人公だけでなく、敵役もそれなりに主張に筋が通っていて格好いいところ。そしてなにより、サブタイトルにもなっている「灰色の魔女」というトリックスター(?)の存在にある。

灰色の魔女・カーラは、光と闇、どちらかに歴史の天秤が傾きすぎないように、その時々不利な側に味方する。というのも、彼女は古代魔法王国の生き残りで、それはそれは凄惨な滅亡――天秤の傾き――を体験したからだ。そのようなことを二度と起こしてはならないと思った彼女は、自分の魂を一つのサークレットに封じ込め、数々の勇者に宿り移りながら、永遠の時を生きる。

彼女の意見によれば、「歴史の天秤が水平にぴったり静止することはありえない。絶えず揺れており、そればかりか時折片方へ完全に傾き、大きな破壊を産む。だから、天秤が片方へ寄らないように時折自分の力を加える。常に小刻みに揺れる天秤は、"永遠の相のもと"では水平に静止しているに等しいといえる」のだそうだ。(筆者意訳)

それは正しい。
水はほおっておけばずっと水だ。氷や蒸気へ相転移してしまわない限り。中では水分子が常に震え、動き回るが、水としてはたゆたえど変わらず水であり続ける。

しかし、主人公・パーンたちは、それはおかしい、という。
誰かが恣意的に運命を変えるのは良くない。カーラの所作は、パーンたちにとっては所詮、「外的な作用」に過ぎない。人間、自分の力<内的な作用>でどうにもならない外的要因に翻弄されるのは我慢のならないものだ。受験勉強を必死に頑張ったのに落第、かたやコネで合格するものがいればどうか。きっと、自分の頑張りの多寡にかかわらず、憤懣やるかたなく感じるはずだ。

カーラが間違っているのは、天秤の傾きのみを考え、天秤の傾きの加速度を考えなかったことだ。その加速度に翻弄されるものは、何を考えるだろう。

カーラの命は永遠で、マクロ的な視野を持つ。
パーンたちの命は限定的で、一度きりの生を持つ。一度の天秤の傾きに直面すると、それだけで人生が決定づけられてしまう。彼らに、二度目はない。少なくとも、二度目をアテにした人生設計は不可能だ。その意味ではミクロ的な視野を持つ。

本作にはもう一つの対立軸、光と闇もあるけど、それについては触れない。
ただし、僕個人としては、カシュー大好き!にも拘らず、考え方的には闇に惹かれる。光の陣営ではゴブリンは暮らせないが、マーモの島では実力相応に暮らすことができる。どんなモノでも規範を強いずに包摂できる、この一点だけでも、闇のほうが社会体制としては優れている。

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