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カント『永遠平和のために』

このシリーズは「古典をもう一度"生きた言葉"で」というスローガンのもとに、現代語で分かりやすく翻訳しなおしたシリーズ。

実は、これまでカントなんか読んだことなかった。カント、岩波文庫、というだけだ頭が痛くなる!どうせ意味不明なことしか書いてないのだろうと。けれど、避けて通れる思想家ではないので、大学時代に解説書は読んだことがある。結局、ちゃんとは理解はできなかったように思う。本書は、『永遠平和のために』を読みたいがために手に取ってみた。これが今の国連を生み出す基礎になったらしい、ということぐらいは僕だって知っていたので。

感想は…意外に面白かった。というか、貪るように読んでしまった。

とくに、本題とは異なる、カントの共和主義がとても興味深かった。

ところで人間の法・権利にもっとも適した体制は、共和的な体制であるが、これは樹立するのがもっとも困難であり、維持するのはさらに難しい体制である。この体制は、 "天使"たちだけにふさわしい国だと言われることも多いほどである。

カントは、専制でも、びっくりなことに民主制[1] でもなく、共和主義(代議制民主主義)のみが "まっとうな" 政体であるという。ここは誤解しやすい点なので、自分に言い聞かせる意味でもまとめておく。

そもそもカントは、国家の形式を区別するには二つの方法があるといっている。

1. 権力を握る人の数で区別する方法

アリストテレス、ポリュビオスから延々と行われてきた方法で、ただ3つの可能性があるという。「支配の形式」とも呼ばれる。

支配者の数 アナロジー 「徳」 「堕落」
一人 父と息子 王政(Monarchy) 専制・僭主制(Tyranity)
少数 夫と妻 貴族政(Aristocracy) 寡頭制(Oligarchy)
多数 兄と弟 国制(Politia)
※一般には民主制
民主制(Democracy)
※一般には「衆愚政」

アリストテレスとポリュビオスの政体分類 – だる×だる日記

2. 元首が民族をどのような方法で統治しているかで区別する方法

憲法に基づいて統治されているか、という「統治の形式」のみで区別する方法で、この方法では、専制的であるかまたは共和的であるかという2種類にしか分けられない。この分類では、(ナイーブな直接)民主主義は専制に分類される。なぜならば、統治権と立法権が分離されていないからだ。

このことはちょっと直観に反するかもしれないが、共和主義を説明するときによく使われる、「ケーキの公平な分け方」問題がとても分かりやすい。

A. ここにケーキが一つ、少女が二人いる。ケーキを二つ、公平に分けるにはどうすればよいか。

Q. 片方がケーキを切り、もう一人が先にとった残りを受け取るようにすればよい。きっと、ケーキを切った少女は、なるべく公平にケーキを切ろうとするでしょう。

この方法は、ケーキが変な形をしていて真っ二つに切ることができない場合でも有効である点で優れている。大事なのは公平に処理しようとするインセンティブで、それで自分が納得できることだ。

ケーキを切る人とケーキを先にもらう人、裁量権と受益が分離されているからこそ、公平でありうる。仮に大きなケーキを大勢できる場合を考えてもいい。専制君主なら、自分の分だけ大きく切ることができる。直接民主制ならば、取り合い奪い合いでカオスになるだろう。代議制民主主義(共和制)であれば、代表者は公平に切ることを要請され、圧力を受け、結果的により公平にケーキを切り分けるだろう。この点、中国で言うところの「宰」と意味が共通する。これは肉を公平に切り分けることを意味し、すなわちそういった徳(人格としての統治能力)を持つものが"宰相"なのだ。

思えば、ドイツにだって共和主義はあったわけだ。共和主義というとすぐルネッサンスのイタリア、革命期のフランス、建国期のアメリカなんかが頭に浮かぶけれど、ドイツこそ時期こそ遅れたものの、統一と自立――共和国の建設――を希求していたのだった。ワイマール憲法なんてのもあったしね。

話が脱線した。

このほかにも、本書は示唆に富む見識に溢れている。たとえば、

他者の権利にかかわる行動の原則が、公開するにはふさわしくない場合には、その行動は常に不正である。

という命題には反論できないし、商業についての

他方ではまた自然は、互いの利己心を通じて、諸民族を結合させているのであり、これなしで世界市民法の概念だけでは、民族の間の暴力と戦争を防止することはできなかっただろう。これが『商業の精神』であり、これは戦争とは両立できないものであり、遅かれ早かれすべての民族はこの精神に支配されるようになるのである

についても、200年たった今でさえ共有されていないと思う。そしてこれらの見識の一つ一つが、厳密な論理で貫かれていることに驚く。

本書の主張については触れない。ぜひ読んでみてほしいな、と思う。いま、最初の『啓蒙とは何か』に立ち返って読んでいるけれど、こっちもなかなかエキサイティングでいいと思う。もっと早く読んでおけばよかったね。

実はこのシリーズのニーチェを一度購入したことがあるが…挫折した。問題意識が違い過ぎて、「だからなんなのさ(==?」っていう感想しか抱けなかった。ヒトには、その本に出会うべき契機というものがあるらしい。そうじゃないと、なかなか吸収なんてできない。

  1. 直接民主制のことを指すらしい (*)

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