Home > Review > 幸福、自由、美徳…そして、「正義」。

幸福、自由、美徳…そして、「正義」。

これからの「正義」の話をしよう
マイケル・サンデル, Michael J. Sandel
早川書房 ( 2010-05-22 )
ISBN: 9784152091314
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

サンデル教授の授業、わしも受けてみたい!…かも。 で興味を持ったので、Amazon で購入。期待通りの知的刺激で、お値段以上、ニトリ。豊富な事例でグリグリと自分の「正義観」がエグり出され、それが古今の哲学者の考えと対比・マッピングされる。読んだ後は到底、もとのままの自分では居られないだろう。哲学ってのは想像以上にヤバい学問なんだのぉ…

筆者によると、「正義」についての論争が巻き起こるとき、3つの理念が中心に展開されていることが分かるという[1] 。要は、こいつらが「正義」の根拠なんだな。

1つ目は、幸福の最大化。

2つ目は、自由の尊重。

3つ目は、美徳の促進。

おお! もうココで、このうちどれを最も重視するかを民主主義的には決定できないんじゃないか?(アローの不可能性定理)。まぁ、それはともかく、サンデル教授はこれをもとに、6種類の考え方を提示している(以下は、ちょっと自分なりに大雑把に分類した)。

  • 幸福+自由=ジェレミー・ベンサムの功利主義。何よりもまず、社会全体の「最大多数の最大幸福」を目指す。
  • 自由+幸福=ロバート・ノージックの自由至上主義(リバタリアニズム)。個人の自由が何よりも優先される。自由こそが幸せ。
  • 美徳+自由=イマヌエル・カントのドイツ観念論哲学。自分の理性で、自分の義務を見つけ出し、そして従え。それが、自由だ。
  • 自由+美徳=ジョン・ロールズの正義論(リベラリズム)。理性による仮説的な社会契約。"無知のヴェール"を想像しよう。そうすれば、平等の概念に従うべきだと知るだろう。
  • 美徳+幸福=アリストテレスの哲学。すべてには目的があり、政治の目的はみんなの美徳を促進することにある。自分に価することをすること、それが幸せだ。
  • 美徳+自由=公共哲学(コミュニタリアニズム)。お互いの自由を極力尊重しながら、単に市場主義的な解決に頼らず、議論による"より善いあり方"を問うていくことは可能だ。

僕は経済学部でお勉強したので、リバタリアニズムの考えに親和的だった[2] 。けれど、それだけでは全部解決しそうではなく、古典的共和主義の考えも重要なのではないかと常々考えていた。そんなわけで、サンデルはいつかは立ち向かわなきゃいけない人だと認識していたけれど、それは正しかったと思った。

ただ、6つの考えの中で、一番ふにゃふにゃしているのは公共哲学であるとも思う。ハッキリいえば、説得力がない。そこは、色んな著作にあたりながら、自分でも練りあげていきたいところだと思う。個人的な考えで言えば、公共主義的な考えには同意できるけれど、市場主義の否定では実りを得られない。議論の結果としての美徳を実現するためのインセンティブ設計ツールとしての市場、つながりで自由と幸福を増進させる市場、といった側面を肯定しながら、公共的な考えも両立できないかなぁと思う。

最後に蛇足。

「元ネタの講義を見るべき、本は無駄」という意見には反対。むしろ、本では映像に流されない"思考"が可能だと思う。映像は時間の主導権があちら側にあるので、些細な疑問や思いつきが、あちら側が設定した時間の流れに流されてしまう。けれど、本は自分のペースで消化できる。読み返せるし、細切れの時間でも読み進められる。

あの迫力のある講義は、アレはアレで魅力的だと思うけど、それが本書の魅力を損なうことはないと僕は思う。

あと、本書の弱点は時系列じゃないので、ロールズ批判としてのノージックという流れは分からない。哲学者の"出し方"が筆者の論の補強になっている部分はある。

  1. 第1章より (*)
  2. もちろん、経済学部にはリベラルな人も多いけど (*)
blog comments powered by Disqus

Home > Review > 幸福、自由、美徳…そして、「正義」。

My Friend Feed

http://friendfeed.com/daruyanagi

Google Analyticator

608
 Unique Visitors 
 (1 day) 
Powered By Google Analytics

Return to page top